聖なる谷

ピサックの市場

 クスコから東へ30キロメートルほど行くと、ウルバンバ川が流れている。ここは6000メートル級の山々に囲まれた「インカの聖なる谷」(Valle Sagrado de Los Incas)と呼ばれるウルバンバの谷だ。ここへ行く山中の山肌には、ペルー地震の断層による地割れが幾本も並んでいる姿を見ることができる。

 途中市場や遺跡で名の知れたピサックを通ってウルバンバの谷を北へ進むとオリャンタイタンボだ。オリャンタイタンボ遺跡には、6つの巨石を組み合わせた不思議な建造物が残っている。高さ4メートル、幅10メートル、奥行きは1メートルほどの岩壁のような建造物は周囲に切り出した石があることから、建造途中とも言われている。この巨石は谷の反対側の山で切り出された石だということがわかっている。これほどの大きさの石を、いったいどうやってこの山の上に上げたのだろう。不思議なことばかりだ。
 さらに遺跡の上から谷を振り返れば、ウルバンバ川を挟んだ岩肌の高みに見張り小屋が岩肌に張り付くようにして作られているのが見える。またオリャンタイタンボの町には、インカ時代の灌漑用水や下水道の施設が残り、今も使われ続けている。「旅籠」を意味するケチュア語の「オリャンタイタンボ」はその名に相応しく交通の要所であり、アマゾンとマチュピチュへの分岐点でもある。

MATE DE COCA

MATE DE COCA  レストランでもMATE DE COCA

 アンデスなど高地へ旅行する場合、高山病になってしまうことがある。脳が膨れ、頭痛と気分の悪さを感じる高山病は、症状が悪くなれば幻覚幻聴もあるという。せっかくの旅なのに高山病になっては楽しくない。ペルーへの旅では、高山病に効くと言われるコカ茶(MATE DE COCA)を四六時中、飲んでいた。

 コカの葉にはさまざまな効能があり、アンデスの先住民たちは神への捧げもの、儀式の道具、鎮痛剤などとして利用してきた。その利用の仕方は、天日に干した葉を灰(石灰)とともに口に含み、噛みタバコと同じように噛んだり、お茶にして飲んでいる。
 現在も日常的にお茶として砂糖を入れたお茶として飲まれ、高山病にかかった旅行者は頭痛や吐き気を和らげた。

機内でもMATE DE COCA  国内線の機内でもMATE DE COCA

 コカの葉は、ビタミンや鉄分、カルシウムを含みもちろん中毒性などない。しかし一方では、この葉を粉状にして石灰水や灯油、硫酸などを使って化学的に精製すると、白い粉のコカインとなる。コカインが強い中毒性をもつ薬物であることは誰でも知っている。また世界中のほとんどの国ではコカインの所持や使用は犯罪だ。(コカインの使用は、そのほとんどがアメリカをトップとする先進国だといわれている)
 アンデスの先住民にとって神の葉とも言えるコカが悪魔の粉となってしまうことが、とても残念でならない。ペルーでみたコカは神聖な植物として利用され、人々に親しまれている。もちろん麻薬とはまったく無縁のものだ。(コカの葉は国外へ持ち出すことはできない)

チチカカ湖、ウロス島

チチカカ湖は広い!チチカカ湖は広い!

 チチカカ湖とそこに浮かぶ浮島(ウロス島)を見にやってきた。

 チチカカ湖は、海抜3810メートルにあり、湖水面積は琵琶湖の約12倍。実感できない広さだ。ペルーとボリビアの領土にまたがり、その湖面の60%がペルー領である。チチカカ湖の島々やその周辺には、ケチュア族やアイマラ族、ウル族といった先住民系の民族が居住して農耕や漁業、観光に携わる一方で、沿岸の都市部で働くことも増えたという。
 浮島に暮らすのはウル族と呼ばれる人々だ。インカ時代に賎民として追われて浮島に暮らすようになったとも言われている。現在純粋なウル族はおらず、ケチュア族やアイマラ族との混血の人々が暮らしている。ウル族は自らを「ウロウロ」と呼ぶことから、ウル族と呼ばれるとともに、彼らが暮らす浮島をウロス島という。ウロス島はいくつもの浮島の総称である。

 ウロス島は「トトラ」と呼ばれる葦でできた浮島で、そこに700人ほどの島民が生活している。島自体は、湖面に顔を出すようにして生えているトトラを刈り取り、それをブロックのようにして束ねたものを湖に浮かせ、さらにその上に敷き藁のようにしてトトラを敷き詰める、といった方法で作られており、浮材として使っているトトラが腐ってきたときは、さらに上から新しいトトラを補充する。 

 ちなみにチチカカ湖には、チリとの戦争で海を失い、内陸国となったボリビアの海軍基地がある。