普通の住宅、普通の別荘

中村好文 普通の住宅、普通の別荘

  中村 好文 (著)

 ひさしぶりの読書記録。最近ではずいぶんとあちこち衰えてきた。視力や思考力に始まり、記憶力や継続して物事に取り組む気力、果ては人の話を聞き取る聴力までが低下していることに、”あぁ、これが老いなんだな”と実感する。気持ちのありようだと言われる向きもあろうが、そんなことは個人差があるのだから、私の個性の一部だと思って、放っておいてもらいたい。

 前段のように我儘を言い出したら、相手も手に負えないだろうし、私自身も面倒に思うことが増えてくる。何事においても複雑になりがちな都会の暮らしや会社員生活にひと区切りを考え始めた頃、雑誌の建築特集で建築家の吉村順三氏の作品でもある、彼の別荘を拝見した。そのグラビア写真は、かねてよりモダニズムに偏り始めていた私の住宅志向に、さらに森暮らしに憧れる心に火をつけた。私の森暮らしに対する憧憬は筋金入りである。なにせ、私の母親は就学したばかりの私に、”アンタみたいな人間は山で一人暮らしをすればいい”と、繰り返し言い放つほどだ。

 森暮らし願望に再び火が付いた私は、自分の居場所、自分に必要な家となるお手本を探し始めた。自分の居場所に求めることは、斬新でも、独創的でも、先進的でもない、平凡で簡素な居心地が良い家がほしい。心からそう思った。そうしているうちに、建築家の中村好文氏の名前を知ったのである。中村氏の手がけた家や小屋(HUT)は、自身が表するように、まさに”普通”(Enkelであり、Patina)である。

 本書には七つの住宅と七つの別荘、そして一つの美術館が紹介されている。そのどれもがシンプルであると同時に個性的である。住まう人と一体となって静かな主張をしているように感じられる。私が求めているのはHouseではなくHomeである。Homeには小さくても穏やかな豊かさと温もりがあってほしい。本書の中にはそのHomeがあった。


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